風薫る

熱海から伊豆急下田行に乗り換える。車両は紅唐の地にフラットな金目鯛の柄様で美しい。この電車は片側半分が海向きになっているので道中ずっと東伊豆の海の景色を楽しむことができる。座席に腰を落ち着かせると金井美恵子の「愛の生活」を開く。ところどころ海に目移りしながら丁度降車駅近くで読み終わる。こんなに好きな本を気持ちよく読めたのは久しぶりで充実した気分。伊豆熱川の駅では河津桜と黄花亜麻が迎えてくれる。海沿いらしく黄花「海女」と当てているのが面白い。駅から程なくしてバナナワニ園にたどり着く。バナナワニ園なのでバナナとワニが見られるし、確かにこんなに沢山の種類のワニが見られるのは日本でここだけだと思うけど、その面積の何倍もの広さの温室植物園があって驚いた。限りなく自生に近い形で熱帯植物を見ることができて、肌寒さの残る三月、南国に旅行に来たような気分に浸る。広い園内をそぞろ歩きながら色々なことがぼんやりと頭に浮かんでは次の考えごとに遷移していく。今年前半はどうもまとまった旅行に行けそうな休みをとることができそうにない。仕方ないので土日を使って行けるところに行こう。今年はどこかで必ずパースに行かねばならないし、そろそろラオスにも行っておきたい。インドシナ半島は子どものときのシンガポールを除けば実はまだちゃんと踏み入れたことがない。未踏の地をいうなら他にもたくさんある。中国大陸もヨーロッパもアフリカもまだ。行きたいところはたくさんあるし日本にもまだまだ行けてないところが無数にある。もう一度訪れたい場所も。……まぁ、子どもみたいに駄々をこねたところで簡単に行けるようになるわけでもない、ひとまずは目下の忙しさを乗り切るしかないだろう。温室を出ると風はまだ冷たいが春は確かにそこにある気がする。

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