シネマ

• 大学三年だか四年だかを境に映画をよく観るようになった。ハマった、という言い方をしてもいいかもしれない。シネフィルと呼べるほどのハマり方でもないが、年間100作品くらいは観ていたと思う。今はその時に比べれば全然だが、少なくとも趣味と言えるくらいには観ていると思う。最初のハマり方は読書と同じで、好きな作家=監督を見つけたらとことんその人の作品を掘り出して見まくる。ウディ・アレンクエンティン・タランティーノスティーブン・スピルバーグクリストファー・ノーラン……まぁ、要はハリウッドの有名どころ。あとはパルム・ドールアカデミー賞などの受賞ものから手当たり次第に。マニアックでもなんでもないが、それでも映画をふだん観ない人たちにとっては、何それ?って感じの作品が多いらしい。あとは、大学で受けた講義の影響で、ブラジルの映画もよく観た。「シティ・オブ・ゴッド」「黒のオルフェ」「リオ40度」「イレ・アイーエ」。

• 映画は色々な切り口の鑑賞の仕方があることがとても面白く、だからこそ一番好きな映画は?と聞かれると難しい。特に、同じ監督の作品を重ねて見ることではじめて分かる背景や、マスターピースに対するオマージュなど、深みにはまればはまるほどその作品の「良さ」というものは形を複雑に変えていく。黒澤明とかヒッチコックは、普通に観ても十分に面白いが、関連書籍を読んでもう一度見返すと新しい発見がいくつもあるだろう。

• 総合点で評価することもできるだろうが、総合点に大した意味はない。漠然としたおすすめというものもない、その人の雰囲気とか、バックグラウンドとか、映画に何を求めるのか、といった変数を知らないとおすすめができない。最近読んだ花田菜々子さんの「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」にも似たようなことが書いてあってひどく共感した。まぁ、おすすめできるほどのコーパスがあるわけでもないけれど。

総合点によらず、個人的に愛の深い映画ならある。今のところは「アメリカの夜」「ガンジー」の二作。どうしてかわからないけれど、定期的に見返したくなる。それだけではなくて、深い感動に包まれる映画だ。

• 昨今の映画をめぐる環境は厳しい。特に日本は配給のつらさがあり、そのあたりをNetflixみたいなネット配信がどうゲームチェンジしていくのか。ニッチなニーズはどう回収されるべきなのか。色々と心配事がつきまとうが、実はネット配信が普及して映画を定期的に観る人というのは増えたんじゃないだろうか。一方で、「映画館で」映画を観る人は少しずつ減っているだろうと思う。これは難しい。映画館と家のTVとでは、紙の本と電子書籍の違いとは比べようもない大きな違いがある。それはドルビー・デジタルやIMAXみたいな最新の技術を使っていなくともそうなのだ。映画館とはつまるところ劇場で、家はあくまでも家でしかない。とはいえ。自分自身に、この一年で何度映画館に足を運んだ?という問いを投げかけると、何とも頼りない答えが返ってくる。この構造的難しさはこれからの時代の永遠のテーマだろう。

「大人は判ってくれない」カイロの紫のバラ」「イングロリアス・バスターズ」「ラ・ラ・ランド」「シェイプ・オブ・ウォーター」……映画の中に出てくる映画館は、みな親しみ深く感じられる。それは、その映画館に、その映画を作った人たちの映画愛とでも言うべきものが、しっかりと投影されているからではないだろうか。

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