夜明け

窓を開けている。そこに人の声はなく、疎らに走る車の音と、ビル群にありがちな何かしらの環境音、そしてたまに烏の鳴き声を遠くに聞くくらい。暑くもなく寒くもなく、気だるさと心地よさが一体になったような奇妙な感覚が続く。

在宅勤務でしばらくひきこもっていたせいか、それとも重苦しい仕事が続いていたせいかわからないが、最近は憂うつな日々を過ごしていた。この連休はちょっとした救いの手のような感じがした。もちろんどこかに出かけるというわけでもなく、仕事のことを気にしていなければならないことには変わりないが、今みたいに気のおもむくままに夜ふかししても構わないし、家で好きなときに好きなことが、土日よりも少しだけ長い間できる。それだけで十分な気分転換になっていると思う。

今年もまた春がやってきて、たまに街を歩きながら色々な花を見つけるのがとても楽しい。以前のように電車に少し乗れば行けるような場所ですら今は行かなくなってしまったし、旅行なんて尚更できないけれど、別に家の周りを歩くだけでも、風が運ぶ緑色の香り、街路を飾り色うつろう躑躅の花、わざわざ探すまでもなく自然は五感を刺激する。

並木通りに並ぶシナノキの瑞々しい葉の隙間から五月の陽光を透かし見ると、世界は去年までと何も変わっていないような気さえする。それは果たして錯覚なのだろうか?


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