蓮始開

記録に遺したいと思える情動の振れ幅もないのをいいことにブログを放置していた。桜散り緑深く梅雨過ぎて夏に至る。市中は色々の瘴気にあふれていて、現実なのにまるで抽象画を見ているみたいだ。最近はウイルスそのものよりも人間の振る舞いによる瘴気の方が厄介であると思う。なるべくそういったものと距離を置く生活を心がけたいが、実際には目に触れずに生きていくのはなかなか難しい。

このところ仕事が忙しく、また休日もどこかに出かけるわけでもないので家で料理をすることが増えた。これまで洋食を作ることが多かったが、ここ3ヶ月ほどはだいたい和食を作っている。白米と味噌汁とあと一品でなんとなく食の形が形成される。しょう油・本みりん・清酒・顆粒だし、この4つがあるとだいたいうまくいく。この空前の和食ブームもいつか飽きてしまうのだろうかと思うが、料理は生活に紐付いた趣味なので身についた分は将来にも生きてくるだろうし、そういう損得だけで趣味をとらえているわけではないが何だか得した気分にはなる。家事は家事なのでなるべく短い時間で終えたいが、手際が悪くなかなかそうもいかず、今の課題は作業の同時並行と後片付けの効率化である。掃除とかもやり込み要素が豊富だし、家事はゲーム的に従事するとある程度モチベーションは保てると思う。とは言え毎日家事をフルにこなす主婦/主夫の皆様におかれましては本当にスーパーマンかと思う。ここに子育てが加わったら過労死レベルである。

意外に早いタイミングでワクチンも回ってきたので、秋くらいには一度実家に帰れたらと思う。昔はただただ退屈な景色だったが今は広い空と見渡す限りの田園風景が少しだけ恋しい。


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倉庚鳴

久しぶりに散歩らしい散歩をした。寒くなってから生活スタイルがだいぶ内向きになっていたし、二度目の緊急事態宣言下で都内の庭園が軒並み閉園となっていたこともあって外を歩く楽しさを久しく忘れていた。

信号待ちのオープンカーから流れるマイケル・ジャクソンのBeat itにちょっとした非日常感が感じられて足取りが軽くなる。カメラロールを見返してみたらいつもの赤羽橋のガソリンスタンド前から撮る東京タワーも去年の夏は収めていなかったことに気づく。別に毎年代わり映えのする光景ではないが定点観測のような気持ちで定期的に撮っている。昔携帯の機種変更をしたときに過去の写真を移さないままデータの消去をしてしまって後になって後悔したことがある。その時住んでいた家とかの何気ない風景が、今では絶対に見ることのできない何かであることはそう珍しくないので、記録に遺しておくのは個人的に結構大事な手続きである。

今年は冬から春に代わる時の花をあまり見られないかなと嘆いていたが、意外というべきか、梅や木蓮、雪柳の花は見かけることができた。菜の花は少し難しいかもしれないな。一昨年の春に浜離宮のお花畑で見た一面の菜の花は一瞬で明るい気持ちにさせてくれるような鮮やかな明るさがあったことを思い出す。

家にいる時間が長くなると、やろうと思えば無限に家事が見つかることに気がつく。掃除も別に床の掃除に限らずエアコンのフィルターからお風呂の排水溝までメンテナンスすべき場所はキリがない。棚のホコリも定期的にとりたいし、冷蔵庫内もある程度清潔に保つには整理と清掃を怠りたくない。昔はそういうこともめちゃくちゃに嫌いだったというか、汚部屋で何が悪いみたいな態度の人間だったので、何がきっかけで変わるかわからないなと思う。多分部屋のそもそもの広さとかも関係するのではないかと思う。広ければ広いほど綺麗に保ちやすいというのはあるだろう。

こんな生活を長くは続けたくないものだが、一時期と比べるとずっと心の余裕が出てきたように思える。


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七変化

今年買って良かったもの。特にアフィリンクや写真はないので気になる方は検索してみてください

 

1. GLOBAL ペティナイフ13cm GS-3

十年以上使った子ども用の包丁とようやく別れを告げ、三徳とセットで購入したもの。三徳以上に用途の幅が広い。重すぎず手になじむ大きさで大体の野菜はきれいに切れるし肉も薄切りや小間を扱うだけならこれで十分という感じ。

 

2. Anker Powerconf 

在宅で最も重宝しているスピーカーフォン。聞く側になったことはないが音質が悪いという感想はこれまで無かった。起動が速く、ワイヤレスで長時間駆動可能なのも良い。

 

3. ダスキン 浴槽用スポンジ

どぎついピンク色の見た目の割にやることはちゃんとやってくれる優れもの。普通のスポンジを使うより断然コッチの方が有能。お湯だけで水あか・汚れを落とせるので入浴のついでに掃除することが多い。

 

4. ストウブ ココットラウンド 20cm

これを購入して料理の幅が相当広がった気がする。無水調理はもちろん肉を焼いたり揚げ物したりと万能。最近はブレイザーも欲しいと思うようになってきた。ココットラウンドは1-2人前だったら20cmが丁度良いと思う。

 

5. Oura Ring

スマートウォッチでも良いのだけれど、腕に何かつけるのが苦手なのでかなり重宝している。俗に言うスリープトラッキングバイス。内側にセンサーの付属した指輪で、睡眠中の心拍数等を計測しアプリと連動して評価してくれる。別に毎日測っていいことがあるわけではないが、睡眠の質を上げるためにどうすればいいかもわかるので、睡眠の質に悩みがある人にはおすすめ。

 

6. コアラ・マットレス

人それぞれ合うベッド合わないベッドがあると思う。自分の場合はこの選択は正解だったと思う。適度な反発で腰も痛くならないし、何より快眠できている。

 

7. 無印良品 グレー羽毛掛ふとん・二層式・薄型

ふとんは重いほうがよく眠れるといわれるけれど、自分の場合そうすると朝の目覚めが非常に悪くなってしまうので、そういうことを回避するために買ってみた。軽いからといって冬寒いということもないし、朝起きやすくなったと思う。

 

8. 無印良品 頭を支える沈み込みすぎないふっくら枕・低め

長い名前は置いといて最後の「低め」が重要。これまでことごとく枕が合わず、ここ数年は枕なしで頭の下にタオル敷いて寝るような状態だったけど、これは首も凝らないし寝違えないのでようやく自分に合う枕を見つけられたと思う。かたさもちょうどいい。

 

9. CASIO Privia PX-S3000

電子ピアノ。やっぱり家にピアノがあるだけでQOLが格段に上がる。リアルなピアノにはもちろん敵わないけど遜色ない音を出せているし、打鍵時の手応えも慣れればこんなもんかなという感じでそこまでストレスはない。趣味で弾く分にはこれで十分かと思う。

 

10. パキラ

これもQOLつながり。家に緑があるだけで明るい気持ちになると思う。他にも色々と観葉植物を揃えたけどこいつが一番初心者向きだとおもう。特に夏ぐんぐん大きくなるのは見ていて楽しい。


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萩の露

白露過ぎて秋分に至る向島百花園の風物。萩、紫苑、沢桔梗、午時花、女郎花。

 

はぎのつゆ【萩の露】

地歌の一。手事物。明治初年京都の幾山検校が作曲。秋の景物になぞらえて、男に裏切られた女の恋情をうたったもの。京風物の末期の代表曲。(三省堂 大辞林 第三版)

 

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天秤座

てんびん座のアルファ星とベータ星はそれぞれズベンエルゲヌビ、ズベンエスカマリという固有名を持つ。てんびん座がさそり座の一部であった頃の名残りだろうか、アラビア語で南の爪、北の爪を意味している。蠍の爪の形をしたそれは、ギリシャ神話によれば正義を秤る天秤である。

こころに抱える天秤はひどく気まぐれで、同じものを載せているのに右に傾いたり左に傾いたりする。日和見主義の天秤などもはや天秤と呼べる代物ではない。起きている出来事は同じなのに、それを楽観視できるときとそうでないときがある。一年前に言っていたことと全く矛盾した発言をしてしまうこともある。人間は昨日と今日、一時間前と一時間後、一年前と一年後で連続性を保ちつつ同一ではない何かをかたどっている。

目の前の人間が語っている何かを好意的に捉えられるかそうでないかは、その日あった出来事や天気や体調にものすごく左右されることがある。相手の身につけている腕時計に照明の光が反射してちらつくとか、白いテーブルクロスの上に点々と落ちているパンくずだとか、そういった普段は気にならないかもしれない些細なことが妙に気になることがある。ずっと運動していなかった人間が長距離を走るとき、眠っていた毛細血管が活動して全身が不快なむず痒さに襲われ、身の回りの何もかもが不潔でごちゃごちゃした世界に写ってしまう。目の前の人間がしているのはただの世間話だし、街の景色は走る前後で変わったわけじゃない。天秤の上に置かれたものは同じなのに、狂った時計の針のように右に振れたり左に振れたりを繰り返す。

天秤を手にしたおとめ座の女神アストライアーは、神話の神々の中で最後まで地上に残り正義を訴え続けたが、結局人間たちは殺戮をやめることなく最後の女神も星の乙女になってしまった。アストライアーは本当に人間を見限ったのか、それとも人間が天秤の存在を忘れないように夏の夜空の星となったのか、今宵も二つの爪は等しく光り輝くけれど、そんな星たちに意味づけをしているのもまた僕たちの心の天秤の気まぐれが生み出した作用である。


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虫眼鏡

まるで夕立みたいな通り雨に包まれた朝、いつもと同じ調子で仕事用のPCをONにした。自分もこんな風に簡単に仕事モードへ切り替えられたらな、と思いながら窓を少し開けてみる。ざぶざぶと雨が降る割に外は全然涼しくならないし、それどころか雨の湿気で不快度が高くなっているようにも思えてくる。涼を取り込むのは早々に諦めてまた窓を閉じる。数日前にどこからか迷い込んで力尽きたセミの亡骸はまだベランダに放置されている。

昼食にレモンを使ったパスタを作って食べた。輪切りにしたレモンをバターと白ワインで炒めただけの簡単なもの。久しぶりのレモンの酸味は強烈だけど爽やかだ。クリームパスタにしてもきっと合うだろうと思う。

仕事もそこそこに切り上げて夕飯の買い物に出かける。行きがけに寄り道したカフェでコーヒーを飲みながら少し読書をしたり夕飯のメニューを検索窓から探したり。ツイッターに上がっていたラーメンの写真に食指が動いて映えある夕飯には辛ラーメンが選ばれた。今日は麺類の一日であった。

タブレットで映画を流し見ながら翌日の飯支度やら何やらの家事をして、風呂に入ったらそうこうしているうちに日付が変わっている。一日一日がこんな風に何となく、しかし穏やかに過ぎてゆく。


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波の綾

その人の書く文章が好きだった。感情の波打ち際で、ある時はさざ波のように静かに、ある時は冬の海のように荒くれ、それでいてどんな時も美しい波を見ているような、そんな文章を書く人。

いつしか波打ち際はどこかに消えて無くなってしまったけれど、きっとどこか新しい場所を見つけて、また美しい波を紡いでいて欲しいと思う。

音楽を聴いたり、本を読んだり、時折何かのきっかけでその人のことを思い出して、その人がその人らしく生きられていることを想う。たまたま今日はそういう日だった。


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