マナド

マナドからジャカルタへ帰る飛行機を降り、ホテルに戻るのにシルバーバードのタクシーをつかまえたとき、太陽はほとんど沈みかかって辺りに鈍い輝きを放っていた。シルバーバードがジャカルタ市街にさしかかったところでラジオから日没を知らせるあの歌が流れる。空は夕方の独特の青い暗がりに包まれている。その歌を合図に、運転手はミネラルウォーターの入ったペットボトルを開けて喉を潤すのだった。断食明けの飲食 Buka Puasa だ。僕はそのとき人間ではないなにものかが人間の生活様式を支配していることに改めて気づかされる。人はその戒律によって、日没とともに、歌とともに一斉にその日の食事をはじめるだろう。当たり前だが僕にはその歌が何を歌っているのかわからない。断食明けを祝っているのか、神に感謝しているのだろうか。それは力強く美しく支配的で、そしてどことなく悲しみを孕んだ歌声である。空の暗い青と、タクシーメーターに赤く光る数字と、ミネラルウォーターの透明が、その歌声とともに変に記憶に焼き付いている。

 

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