2019-01-01から1年間の記事一覧

浅煎り

東京の夜景は好きだ。思い出すたび、何度でも見に行きたくなる。地元で育った年数と、東京に来てからの年数が段々と近くなっていくけれど、それでも田舎者の感覚は抜けないのか、夜景を見るたびに新鮮な気持ちになる。とはいえ、最初に見た頃のような感動を…

猫の夢

あくまで個人的な事情だが、負の感情は文章に起こしやすい。負というと少し語弊があるかもしれない。例えば満たされない感情、鬱屈した感情、ものごとに対する批判や非難の精神など。文章にしやすいからこそ、意識してそのような話題はなるべく避けようとす…

思い草

理由もなくせつない、言葉にならない不定形の感情が、胸に押し寄せては優しく波風を立ててゆく。夜になると半袖では少し肌寒くなってきて、東京でも少しずつ秋の気配を感じるようになった。 先日、はじめて向島百花園を訪れた。夏の間は花を愛でるということ…

谷根千

台東区谷中から文京区根津、千駄木にかけてのエリアは通称谷根千と呼ばれている。谷根千の呼称はそれなりに古く、80年代に刊行された同名の地域雑誌で広くその名が用いられるようになった。もともとこの区域は山手線の内側でも戦災の影響をあまり受けなかっ…

熱帯夜

部屋の明かりを消すと障子から青白く月灯りが差していた。外に出れば四方から虫の声に蛙の声が響き、空にはもち月がふっくらと夏の宵を照らしている。眠れぬ夜の手慰みに思い出し話を書く。 熱帯夜という言葉で真っ先に思い出すのは大学生の頃に同じ研究室の…

屋根裏

屋根裏という名のそのライブハウスは、下北沢駅から京王井の頭線を渋谷方面に乗ればすぐに見えた。そのライブハウスに行ったことは無かったが、自分にとって下北沢の一番のランドマークだったと思う。数年前にそのライブハウスはなくなってしまった。 下北沢…

五差路

都営大江戸線赤羽橋駅赤羽橋口を出ると赤羽橋を背に大きく五差路が見える。首都高速の高架下を並走する環状3号線、それらを縦に貫く桜田通りに、ガソリンスタンドをはさんで白山祝田田町線が枝のように伸びている。この交差点は個人的には東京タワーのビュー…

夏休み

行きたい場所は雪だるま式に増えるけどこの暑さでは雪だるまも一瞬で融けてなくなってしまう。この連休は日中家でだらだらとストリーミングを消費したり、布団を干したり水回りのそうじをしたり、あとはぐうたら寝たりしながら夜を待って少し出かけるといっ…

洗濯物

コインランドリーは不思議な空間だ、と思う。何故と問われると答えが難しいのだが、そこにしかない独特の空気感が漂う。通常、コインランドリーは独立して運営されることもあれば、クリーニング店と併設されるタイプもある。また、日本では銭湯などの浴場に…

ガウラ

ブログの空白期間は毎週のように花を撮りに出かけていた。以前のブログでも触れていたかもしれないが特に3月後半くらいから爆発的に開花期を迎える花が増え、5月から6月にかけてピークを迎える印象があり、軒先の鉢から野花まで至るところに花を見つけること…

漂泊船

7月なか頃までのいつになく長く続いた梅雨寒がまるで全部嘘だったみたいに暴力的な暑さに見舞われている。昔を懐かしむでもなく、今はこれが日本の夏の風物詩と割り切っている。昼間を避けて夕方から外を出歩いても背中から汗がほとばしる。暑いのは嫌なこと…

アニマ

その話題には、触れてはいけない。触れて良いことは何もない。そのことについて自分は部外者で、無関係で、なんの力になることもできない。失った時間を取り戻すこともできない。語り得ぬものを目の前にして、ただただ祈ることしかできない。建前としてはこ…

曼荼羅

ジャン=フランソワ・リオタールは『ポストモダンの条件』(1979) のなかで、「大きな物語」に依拠することで成り立ってきた近代に対して、それら大きな物語への不信感が蔓延した時代をポストモダンと定義づける。大きな物語とは、もともとは科学の拠りどころ…

虎が雨

霧けむりの薫る朝、昨夜の雨をたたえた川沿いの桜の葉が恭しく川面に臥せている。今年の梅雨は心なしかいつもより雨が多い。 しばらくブログを書かずにいたらいつの間にか桜の時期も新緑も終わり雨の季節を迎えている。紫陽花も終わりがちでそろそろ百日紅が…

塩の道

思い出し話を一つ。 しばらく前の話になるので少し記憶がおぼろげだけど、大学の研究室に進んだときの一つ上の先輩。その人は、フランス帰国子女らしく、フランス文学が好きだった。自分の仲のよかった先輩と知り合いでもあったので、たまに飲み会で顔を合わ…

島の春

2月の中ごろに2泊3日で奄美大島を旅してきた。奄美にはLCCも就航したので比較的手頃な値段で旅することができる。宿泊施設は十分な数が無く、オフシーズンでも部屋が埋まりがちだったので早めの予約が良いと思う。気候としては屋久島に近く、訪れた日も曇天…

香合せ

春の匂いというものがあり、表現するのは難しいが……例えるなら埃っぽい土くれのようにも甘酸っぱい潮風のようにも感じる。単調でなく、複層的な匂いだ。ペトリコールみたいなものだろうか。それでコンセンサスがとれるかわからないが自分は春の匂いと呼んで…