蓮始開

記録に遺したいと思える情動の振れ幅もないのをいいことにブログを放置していた。桜散り緑深く梅雨過ぎて夏に至る。市中は色々の瘴気にあふれていて、現実なのにまるで抽象画を見ているみたいだ。最近はウイルスそのものよりも人間の振る舞いによる瘴気の方…

倉庚鳴

久しぶりに散歩らしい散歩をした。寒くなってから生活スタイルがだいぶ内向きになっていたし、二度目の緊急事態宣言下で都内の庭園が軒並み閉園となっていたこともあって外を歩く楽しさを久しく忘れていた。 信号待ちのオープンカーから流れるマイケル・ジャ…

七変化

今年買って良かったもの。特にアフィリンクや写真はないので気になる方は検索してみてください 1. GLOBAL ペティナイフ13cm GS-3 十年以上使った子ども用の包丁とようやく別れを告げ、三徳とセットで購入したもの。三徳以上に用途の幅が広い。重すぎず手にな…

萩の露

白露過ぎて秋分に至る向島百花園の風物。萩、紫苑、沢桔梗、午時花、女郎花。 はぎのつゆ【萩の露】 地歌の一。手事物。明治初年京都の幾山検校が作曲。秋の景物になぞらえて、男に裏切られた女の恋情をうたったもの。京風物の末期の代表曲。(三省堂 大辞林…

天秤座

てんびん座のアルファ星とベータ星はそれぞれズベンエルゲヌビ、ズベンエスカマリという固有名を持つ。てんびん座がさそり座の一部であった頃の名残りだろうか、アラビア語で南の爪、北の爪を意味している。蠍の爪の形をしたそれは、ギリシャ神話によれば正…

虫眼鏡

まるで夕立みたいな通り雨に包まれた朝、いつもと同じ調子で仕事用のPCをONにした。自分もこんな風に簡単に仕事モードへ切り替えられたらな、と思いながら窓を少し開けてみる。ざぶざぶと雨が降る割に外は全然涼しくならないし、それどころか雨の湿気で不快…

波の綾

その人の書く文章が好きだった。感情の波打ち際で、ある時はさざ波のように静かに、ある時は冬の海のように荒くれ、それでいてどんな時も美しい波を見ているような、そんな文章を書く人。 いつしか波打ち際はどこかに消えて無くなってしまったけれど、きっと…

針茉莉

観測史上最も長い梅雨が明けて今年も夏はやってきた。もちろん暑いことは暑いけれどまだ夜は涼しいし、蝉もいつもより弱々しく鳴いていて本調子でない感じだ。それでも昼間にマスクして外出するのはなかなかにつらい。 流行り病の話題に触れるのはあまり気が…

ラムネ

カメラロールの整理をしていたら去年も一昨年も同じ時期に夢の島の熱帯植物園に行っていたらしい。なぜか夏に温室に行きたがるのは、夏休みに南の島に行きたいみたいな衝動と同じだろうか。 同じ場所、同じ植生、しかしそこにある人間の営みだけがいつもと異…

夜の街

精神的に余裕がないときほど部屋の散らかり具合がひどい。要するに掃除をするための時間を自分を甘やかすことに費やしている。そうして部屋の自由度が低くなって更に心に余裕が無くなる。そういう悪循環を断ち切るために週末こそ部屋の掃除をと意気込むが、…

香り水

湿度100%という表記を見て思わずふふっと笑ってしまった。日が沈む前の上野公園は珍しく霧に包まれている。肌にまとわりつく6月の水の精と重たく影を落とす分厚い雲。去年の今ごろ稲毛まで花を見に行ったときに降っていた雨をふと思い出す。6月の雨は生温く…

回顧録

夏至の少し前の夜10時、気まぐれで会えるかもわからない人のことを待ちながら、渋谷スクランブル交差点の様子をスタバの席から眺めている。もうずいぶん前に飲み終えたアイスコーヒーは、もう氷の影も残っていない。その時暇つぶしのために持ってきた本は何…

閑日月

特にすることもなく連休はあっという間に過ぎていった。どこにも行かず、特にすることもない連休というのはそれはそれで新鮮な経験で悪くないと思った。暇といえば暇だが、逆に言えば気が向いた時に気が向いたものに手を出せばよいだけ。遠出できないという…

夜明け

窓を開けている。そこに人の声はなく、疎らに走る車の音と、ビル群にありがちな何かしらの環境音、そしてたまに烏の鳴き声を遠くに聞くくらい。暑くもなく寒くもなく、気だるさと心地よさが一体になったような奇妙な感覚が続く。 在宅勤務でしばらくひきこも…

春の夜

以下は2020年3月22日に書いたもの。当時は文章にまとわりつく重苦しさに耐えかねて投稿をするのをやめていたけど、気持ちも少し落ち着いてきたので当時の記録として残しておく。 "外は生暖かく強い風が吹いている。もう桜も満開だというのに週末は雪が降るら…

オペラ

2月22日東京芸術劇場で公演されたオペラ「ラ・トラヴィアータ」を観劇した。オペラ観劇は生では今回が初めてで、観ようと思ったきっかけは矢内原美邦さんが演出だったから。矢内原美邦さんは以前のエントリーでも触れているけど演劇とコンテンポラリーダンス…

真南風

しばらくの間日本を離れることがほぼ確定したので今のうちに国内旅行に行っておこうということで沖縄。暖冬ということもあるかもしれないが2月の沖縄はめちゃくちゃに暖かい。4月の東京くらいの暖かさはあると思う。あったかい場所最高です。 ランボーのうた…

毛糸絵

1. 最近。目の前で起こっていること全部が、ディスプレイに流れる映画のように映って主観から遠ざかる。住んでいるワンルームの天井もベランダから見える高層マンションの明かりも全部現実なのだけれど現実味がない。それはそれで悪いことではないとも思う。…

浅煎り

東京の夜景は好きだ。思い出すたび、何度でも見に行きたくなる。地元で育った年数と、東京に来てからの年数が段々と近くなっていくけれど、それでも田舎者の感覚は抜けないのか、夜景を見るたびに新鮮な気持ちになる。とはいえ、最初に見た頃のような感動を…

猫の夢

あくまで個人的な事情だが、負の感情は文章に起こしやすい。負というと少し語弊があるかもしれない。例えば満たされない感情、鬱屈した感情、ものごとに対する批判や非難の精神など。文章にしやすいからこそ、意識してそのような話題はなるべく避けようとす…

思い草

理由もなくせつない、言葉にならない不定形の感情が、胸に押し寄せては優しく波風を立ててゆく。夜になると半袖では少し肌寒くなってきて、東京でも少しずつ秋の気配を感じるようになった。 先日、はじめて向島百花園を訪れた。夏の間は花を愛でるということ…

谷根千

台東区谷中から文京区根津、千駄木にかけてのエリアは通称谷根千と呼ばれている。谷根千の呼称はそれなりに古く、80年代に刊行された同名の地域雑誌で広くその名が用いられるようになった。もともとこの区域は山手線の内側でも戦災の影響をあまり受けなかっ…

熱帯夜

部屋の明かりを消すと障子から青白く月灯りが差していた。外に出れば四方から虫の声に蛙の声が響き、空にはもち月がふっくらと夏の宵を照らしている。眠れぬ夜の手慰みに思い出し話を書く。 熱帯夜という言葉で真っ先に思い出すのは大学生の頃に同じ研究室の…

屋根裏

屋根裏という名のそのライブハウスは、下北沢駅から京王井の頭線を渋谷方面に乗ればすぐに見えた。そのライブハウスに行ったことは無かったが、自分にとって下北沢の一番のランドマークだったと思う。数年前にそのライブハウスはなくなってしまった。 下北沢…

五差路

都営大江戸線赤羽橋駅赤羽橋口を出ると赤羽橋を背に大きく五差路が見える。首都高速の高架下を並走する環状3号線、それらを縦に貫く桜田通りに、ガソリンスタンドをはさんで白山祝田田町線が枝のように伸びている。この交差点は個人的には東京タワーのビュー…

夏休み

行きたい場所は雪だるま式に増えるけどこの暑さでは雪だるまも一瞬で融けてなくなってしまう。この連休は日中家でだらだらとストリーミングを消費したり、布団を干したり水回りのそうじをしたり、あとはぐうたら寝たりしながら夜を待って少し出かけるといっ…

洗濯物

コインランドリーは不思議な空間だ、と思う。何故と問われると答えが難しいのだが、そこにしかない独特の空気感が漂う。通常、コインランドリーは独立して運営されることもあれば、クリーニング店と併設されるタイプもある。また、日本では銭湯などの浴場に…

ガウラ

ブログの空白期間は毎週のように花を撮りに出かけていた。以前のブログでも触れていたかもしれないが特に3月後半くらいから爆発的に開花期を迎える花が増え、5月から6月にかけてピークを迎える印象があり、軒先の鉢から野花まで至るところに花を見つけること…

漂泊船

7月なか頃までのいつになく長く続いた梅雨寒がまるで全部嘘だったみたいに暴力的な暑さに見舞われている。昔を懐かしむでもなく、今はこれが日本の夏の風物詩と割り切っている。昼間を避けて夕方から外を出歩いても背中から汗がほとばしる。暑いのは嫌なこと…

アニマ

その話題には、触れてはいけない。触れて良いことは何もない。そのことについて自分は部外者で、無関係で、なんの力になることもできない。失った時間を取り戻すこともできない。語り得ぬものを目の前にして、ただただ祈ることしかできない。建前としてはこ…