2018-01-01から1年間の記事一覧

鐘氷る

東京タワーのライトアップは夏と冬で違う。夏はシルバーライトが基調の白っぽくすっきりとした色、冬はナトリウムランプで柔らかく華やかなオレンジ色に照らされる。それぞれ季節に合っているというか、よく考えられていると思うけど、個人的には冬の色のほ…

シネマ

• 大学三年だか四年だかを境に映画をよく観るようになった。ハマった、という言い方をしてもいいかもしれない。シネフィルと呼べるほどのハマり方でもないが、年間100作品くらいは観ていたと思う。今はその時に比べれば全然だが、少なくとも趣味と言えるくら…

天離る

夜の彼方から白鳥の啼く声が聞こえる。白鳥は群れをなし遥かシベリアの地から数千キロを渡って越冬にやってくる。稲株の合間で羽を休め、あるいは落ち穂をついばむ鳥たちは、くすんだ秋の色の中で妙に映える白色をしている。 鄙の家で過ごす秋の夜長は、灯油…

ケーキ

好きなお店。 ≪ル・ポミエ≫ 下北沢 / 麻布十番 たまに新宿伊勢丹地下にも出店。大学時代からの縁、おすすめはスペシャリテのポミエかお米とミルクのプディングリ・オ・レ シリーズ、あと定番のフレジエ、キャラメル・サレ。かわいい犬の形をしたエクレール・…

闇の翼

会社を辞めたい。最近ふつふつと湧き立つ感情である。ものすごく辞めたいわけでもないし、ただ口にしたいだけの欲求というわけでもない、「そこそこ」辞めたいの感情。どっちつかずの微妙な感情の遷移の中で、いつ「今すぐ辞めよう」に転ぶかわからない。こ…

野良猫

近所に野良猫がいる。帰り道に会ったり会わなかったりする猫で、毎日定位置で寝転がっていたと思えば一ヶ月ほど姿を見せないこともある。人懐こい性格で、静かに近寄れば撫でさせてくれる。最近は急に寒くなってきたせいかいつもより多めにすり寄ってくるよ…

理髪店

子どもの頃に通っていた床屋のおばちゃんは元気だろうか。今はおばあちゃんだろうし、その床屋はしばらく前に店を閉じた。二千円くらいで髪を切って顔剃りをして、台所のシンクみたいなところで髪を洗ってもらう。顔剃りは子どもなので要らないといえばいら…

処女宮

雨上がりを流れる褐色の乳の河、桶の中の鰻のようにぬるぬると激しく唸る水面、薊の花は夕闇に鈍く輝き、遠くの空ではトワイライトブルーの緞帳が下りる。茅蜩、馬追、鈴虫のさまざまの虫が昼と夜の幕間楽を奏でている。ペトリコール、ペトリコール、耳障り…

夢の島

東京湾埋立14号地の一角、湾岸線を挟んで新木場の北を占めるのが江東区夢の島である。高度成長期にはごみの埋め立てが続き、夢の島は蝿の島と同義であった。今や整備も落ち着いて久しく、競技場やだだっ広い公園の広がるひっそりとした空間がそこにある。そ…

石敢當

地味に仕事が忙しい。地味にというところがポイントで、押し切りで有休を取得して沖縄本島を訪れた。逆走台風から逃げるようにして降り立った沖縄は、暑いのは暑いが東京よりずっと過ごしやすかった。東京の夏もこんなものであってほしいと思う。 忙しいと仕…

水芙蓉

久しぶりに仕事帰りに上野公園を訪れた。蓮の時期の不忍池をおよそ一年ぶりに歩く。あたりを歩くのはほとんど外国人観光客だ。見頃にはもう少しといったところだが、所々に華やかで上品な桃色の蕾が覗く。不忍池の蓮は東京では随一の数を誇るだろう。池の一…

風薫る

「平成最後の梅雨」は観測史上最も早い梅雨明けをもって終焉した。ここに「平成最後の夏」が訪れる。いやぁ、暑い暑い。しかしこんなものは序の口で、あと数週間もないうちに地獄の猛暑がやってくることは想像に難くない。まぁそれはそれで日本らしさである…

推し麺

順不同 1. 河原町 猪一 鶏そば(白) 2. 喜多方 上海 中華そば 3. 根津 讃岐饂飩根の津 鴨つけ麺 4. 会津若松 めでたいや 辛みそねぎ肉中華 5. 赤坂 たけくま 酢辣湯麺 6. 汐留 ジリオ イ・ピーチ(日替わり) 7. 新代田 バサノバ ラクサソバ 8. 渋谷 麺飯食…

歳時記

来年の4月で平成が終わる。巷では「平成最後の○○」といった言葉が流行っているようだ。平成最後の夏。平成最後の誕生日。エトセトラ。昭和最後の夏も秋も冬も皆が知り得ぬまま過ぎていき、そして青天の霹靂ごとく平成がやってきた。地平かに天成る。自分は幼…

キャパ

南の異国のショッピングモールに漂うのと同じ、香水と空調の黴、埃っぽさの入り混じった匂い。雨が降ると余計に増幅される。これが夏のちょっと手前の空気だ。 写真は記録<アーカイブ>の一形態である。それは刻一刻と変容する世界を、ある日ある時ある場所…

東京駅

上京したての頃、そこに今のように立派な赤れんがの駅庁舎は見えなかった。鹿島による庁舎の保存・復原工事が始まったのは入学とちょうど同時期。そこから約5年を経て庁舎が完成し、更に5年後の2017年に駅前広場も整備される。丸の内側だけではない。八重洲…

鄙の春

ゴールデンウィークは何だかんだ毎年実家に帰省していると思う。山の春はヤマツツジやシバザクラあたりが盛りを迎えていた。田に水を張りはじめる頃で、夏日の翌日はストーブを焚かなければならないほど寒かったりとまだまだ寒暖の安定しない日が続く。 実家…

青い鳥

二人きょうだいのチルチルとミチルは幸せの青い鳥を求めて夢の中で過去や未来の国へ長い長い旅に出る。旅から帰ったとき、二人はもともと家の鳥かごで飼っていた鳥が青かったことに気がつくーー。モーリス・メーテルリンクの有名なこの童話劇が示唆するもの…

良心的

国立科学博物館附属自然教育園はJR東日本目黒駅東口を降りて10分程歩いた場所に位置する。まだ4月だというのに日中の最高気温が30度に差し掛かったこの日は薄手のジャケットが暑苦しく感じるくらいの陽気であった。アトレのスターバックスで手にしたアイスコ…

白妙の

宇多田ヒカルのFlavor of Loveという歌の歌詞で以下のような一節がある。 信じたいと願えば願うほど何だか切ない/「愛してる」よりも「大好き」のほうが 君らしいんじゃない? 理由はわからないけれど、この歌詞には自分の中に何かしら共鳴するものがある。…

かおり

夜、残業を終えてオフィスを一歩出ると心地よい空気に身体が軽く感じる。ひんやりとまとわりつく潮風に海の匂いを感じてどこか遠い海辺へ旅に出たいと思う。ふわふわした気分で歩いていると、いつのまにか早朝のジャカルタを包みこむアザーンがこだまのよう…

福寿草

@cuunelia wrote on 1 Apr 2018 as followings: おれは男だけどミサンドリーっぽいところがあるというか男のホモソーシャル感に違和感を感じることが多くて、でも一方でご都合フェミみたいな感じも好きではないし単純に人間嫌いというやつなのかもしれないん…

青海波

文化的簒奪 cultural appropriation という言葉がある。マイノリティの文化が支配的集団の文化によって取り込まれるとき、マイノリティの文化はその文脈をほとんど完全に失ってマジョリティの文脈の中で再解釈されることになる。 例えば、ヴィクトリアズ・シ…

春の歌(三)

出町柳の飛び石から鴨川を2kmほど遡上したところに京都府立植物園がある。ここは京都観光の名所というわけではないが、日本の植物園としてはかなり充実している方だと思う。春の陽気にあてられて鴨川沿いを歩きつつ、この植物園へ向かうことにする。 あたた…

春の歌(二)

思い出は忘れ去らぬうちにしたためておこうと思う。大事なことや印象深いことは比較的ずっと覚えていられるだろうが細部までとなるとそう簡単にはいかない。この日記は昔あった出来事の細部を呼び起こすのに個人的にはすごく適している。それはただ古いシナ…

春の歌(一)

春の京都には初めて訪れた、と思う。 記憶に残っている限りの最初の京都は十数年前のゴールデンウィークに興戸にある姉のアパートを訪れたときで、どちらかといえばもう初夏のような陽気で青々とした竹林の中を自転車で駆け抜けた思い出がある。それ以降の京…

日々草

2018年3月18日、上野動物園で咲いていたこの花は名をツルニチニチソウという。ニチニチソウに似ているが花色が青紫で花期の早いものがツルニチニチソウ。どちらもキョウチクトウ属でキョウチクトウの一重咲きと花形が似ている。実はこの花の名前を知らないま…

花開く

夜家に帰ってくちなしに目を向けると蕾の先が白んでいた。 お風呂に入ったあと映画を観ていると眠くなって寝落ちしてしまった。0時過ぎに目を覚まして水を飲みに行くと先ほどの蕾が少し開いている。この鉢を育てて三年になると思うが花開く瞬間に立ち会えた…

風薫る

熱海から伊豆急下田行に乗り換える。車両は紅唐の地にフラットな金目鯛の柄様で美しい。この電車は片側半分が海向きになっているので道中ずっと東伊豆の海の景色を楽しむことができる。座席に腰を落ち着かせると金井美恵子の「愛の生活」を開く。ところどこ…

まゆみ

2月23日 朝から表参道。Café Kitsune でカフェラテをピックアップして根津美術館へ。「香合百花繚乱」展を観る。手の込んだスモールウェアはいずれも可愛らしく好みである。漆、蒔絵、青磁、染付など素材技法は色々でそれぞれに趣が感じられる。見終わった後…