夜の蝶

春だ。冬のあいだ化石のような色と形で地平を覆っていた枯れ草の合間にちらほらと萌黄の新芽が見える。夜に映える沈丁花の香りに鼻孔がひらく。街をゆく人々の影は黒やベージュの群れる退屈な色からロイヤルブルーやアイビーグリーンへとめくるめく変身を遂げる。まるで蛹から孵る蝶のよう。蝶たちは来たる春の訪れに胸をおどらせてふわふわと夜の街を漂っていく。僕は春になった瞬間のこの感じが大好きだ。夢と現のあいだで幸せにまどろむような甘い空気。人が春になると恋をしたくなるのも無理はないし、さかりのついた猫たちも同じ気持ちなのかもしれない。日本の春といえば桜を持て囃しがちだけれど、他にも春の主役を飾れそうな花たちはたくさん控えていて、そんな華やかな季節が今まさに訪れようとしているこの空気が既に楽しさをはらんでいる。今年はひたち海浜公園ネモフィラを見に行けるだろうか。

 

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