天離る

夜の彼方から白鳥の啼く声が聞こえる。白鳥は群れをなし遥かシベリアの地から数千キロを渡って越冬にやってくる。稲株の合間で羽を休め、あるいは落ち穂をついばむ鳥たちは、くすんだ秋の色の中で妙に映える白色をしている。

鄙の家で過ごす秋の夜長は、灯油ストーブの上でふつふつと沸き立つ薬缶の音、たまに遠くから聞こえる電車の音と、あとは白鳥の啼き声くらい。それは雉のこともあれば、梟のこともある。今この瞬間は白鳥が啼いている。夏は蛙の大合唱、初秋は虫の声で賑やかだがこの時期は静かなものだ。心なしか時間もゆっくりと進んでいる。

群れで行動する白鳥は寂しいことがあるだろうか。その啼き声はどうしても悲しく響いてしまう。牧水の「白鳥や〜」は海鳥のことだが、白鳥にも似たようなことが言える。群れているのにどこか孤独を感じさせる。それはかれらが異邦からやってきたことに起因するのだろうか、その羽色と自然との奇妙なコントラストに基づくものだろうか。

幾夜の空を渡るエクソダスカシオペアは異邦の夜に輝いている

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