2018-01-01から1年間の記事一覧

夜の蝶

春だ。冬のあいだ化石のような色と形で地平を覆っていた枯れ草の合間にちらほらと萌黄の新芽が見える。夜に映える沈丁花の香りに鼻孔がひらく。街をゆく人々の影は黒やベージュの群れる退屈な色からロイヤルブルーやアイビーグリーンへとめくるめく変身を遂…

NYC

One of the things that I still remember about the stay in NY few years ago is the lunch. Every weekday I went to English school near the Canal St. station and usually get lunch at the blank lot across Varick St., buying some fast foods fro…

上弦月

ふと思い立って最寄駅のいつもとは反対側の出口を降りてみた。線路の反対側で来るのは引っ越して以来初めてだと思う。あちら側と違って繁華街もなく街路灯はまばらで静かな印象がある。テイクアウトしたコーヒー片手にしばらく星空と下を流れる河を交互に眺…

梅初月

陰暦十二月を梅初月という。梅が咲き始めるころの月。陰暦でも年が明けて新しい年を迎えた。いわゆるチャイニーズニューイヤーとして知られるこの時期には中華圏からどっと観光客が押し寄せる。願わくばかれらにもこの美しい梅の季節を日本で楽しんでほしい…

夜の帳

久し振りに寝ずに夜を明かすとちょっといけないことをしてしまった気分になる。常態化してしまうと実感に乏しくなるのでたまにがベスト。それは呑み明かすでも踊り明かすでも映画を観たおすでも良い。真夜中の墨色が溶けて朝が薄青く滲んでくるその瞬間に立…

寝覚記

夜半から朝にかけて雨が降った。朝のまどろみの中で聞こえる雨音は心地よい。雨は目ざわりも耳ざわりもよいので印象に残りやすい。子どもの頃、金魚が放たれた池にしとと落ちる雨粒と波紋を眺めたこと、大学何年かの秋口に朝まで飲み明かした帰りに降った土…

小説家

津島佑子の『ヤマネコ・ドーム』を読んだ。津島は太宰治の娘だが、個人的にはアイデンティティとしてそれが一番最初に出てくるような作家ではない。宇多田ヒカルは藤圭子の娘だが、別に藤圭子の娘だからという理由で大衆に愛されているわけではない。それと…

愚故道

「ていねいな暮らし」という言葉がある。コーヒーは生豆を買いパンでローストしたものをミルで挽き、ハンドドリップまたはフレンチプレスで淹れる。人工よりも天然を愛し、添加物と過度の包装、コンビニ弁当を忌み嫌う、そんなライフスタイルをざっくりと形…

十六年

横浜赤レンガ倉庫にNibrollのダンスを見に行った。2002年初演の「コーヒー」を見たのは今回が初めて。矢内原美邦さんの演劇(ミクニヤナイハラプロジェクト)は好きでこれまでに何度か見に行ったことがあるけれど、どれも演劇でありつつ人間の身体性を強く主…

牡丹雪

東京は四年ぶりの大雪が降ったらしい。四年前の雪のことはもうおぼろげな記憶しかないが、たしか平日の朝で交通機関が麻痺して定時出社を諦めて近所の喫茶店で雪を見ながらぼーっとしていたんだと思う。先日の大雪は昼過ぎくらいからひどくなって夕方にはと…

七草粥

年末から正月にかけていつものように帰省した。こたつで寝ているか犬の散歩をするだけで勝手に飯が用意されて勝手に洗濯が仕上がっているいつもの流れは変わらない、ように見える。ただし年を経るごとに家族の老いと死がそろりそろりと家を包み込んでいくよ…